お笑いバックスユーザーの備忘録

『爆笑!お笑いバックスちゃんねる』が好きすぎて作った完全非公式ブログ

【R-1初挑戦】せめて「もどき」にはなれたかな?

又吉直樹さんの小説『火花』の中にこんな数節があります。

「だが、もしも『俺の方が面白い』とのたまう人がいるのなら、一度で良いから舞台に上がってみてほしいと思った。『やってみろ』なんて偉そうな気持など微塵もない。世界の景色が一変することを体感してほしいのだ。自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ」

又吉直樹『火花』文春文庫,2017年,150-151頁

この記事は、その世界を体感してみたくて、舞台からの景色を見てみたくて、ただのお笑い好き(”大宮”のお笑いが大好きです!)の一般人がお笑い賞レースR-1グランプリ2024に一人で挑戦した記録です。
笑いのプロであるお笑い芸人さん達がしのぎを削る場に、素人がのこのこ上がり込むだけでも充分図々しいことではありますが、せっかくの機会でもあるので、挑戦するまでの過程や当日の様子などを紹介することにしました。

※注意※
・オタクの自分語りキモキモ日記です。
・お笑いのネタ作るのも初めてなので、作り方や練習方法もオリジナルスタイルです。
・R-1(1回戦)の様子だけを知りたい場合は5.本番当日から読んでください。

◇ぼる塾酒寄さんのnoteが大好きで、一番大好きなこの記事の形式を参考にさせていただきました。

note.com

あと、しゃぶしゃぶのエピソードも大好きです。

note.com

ぼる塾さん四人の面白い優しい愛おしい素敵の全てがつまったこのnoteを皆さん読みましょう!(何者)

……すみません、そろそろ本編入ります。

1.はじまり

2023年9月某日
友人夫婦(お笑いとは関係ないところでの知り合い)がM-1グランプリに出場したらしい。
「楽しかった!」「一回挑戦する価値があるよ!」「mtskちゃんはお笑い好きだけど、自分ではやらないの?」と彼らは言う。

……そういえば、劇場行ったり配信買ったりするくらいにはお笑いが好きだけど、自分がお笑いをやることは考えたことがなかった。まぁ確かにこれまで「面白い奴」のカテゴリーに入れたことは一度も無い、どちらかというと陰キャ側の人間ではある。でも、大学時代に一度演劇の舞台に出演した時の興奮と快感を擦り倒すだけの精神的童貞で一生過ごすのも嫌だな。「お笑い芸人」になるのは難しいけれど、アマチュアでも出られる賞レースに参加するという方法があったか。「やらないの?」って言われて、明確な理由もなく「やらない」っていうのは憧れの一座の精神に反してるよね。
ドミノ倒しのように私の心はお笑いの舞台に立つことへ傾いていった。
とにかく早く何かしらに参加したい!と帰宅後すぐTHE Wのウェブサイトを確認したが、既にエントリー期間は終了していた。
次にR-1グランプリのサイトを調べると、どうやらエントリー期間はこれからで、年末年始に1回戦が行われるらしい。これだ!

9月某日


www.youtube.com

見そびれていたハロステを見た。アンジュルムの「限りあるMoment」の歌詞で感情が爆発。

「”もどき”にもなれず 雲の上の人 見上げてるだけじゃ 惨めだよ」

今の私じゃん!ただ安全地帯から御託を並べただけのブログを書いてる私じゃん!
……そうだよね、みじめだよね。でも、賞レースの舞台に一度でも立ったら「もどき」くらいは名乗ってもいいかしら?
とりあえず上國料さんがイメージモデルをされているOPERAのカラーマスカラを購入しました。本番塗ってくぞ。

9月某日
ネタの方向性を考え始める。
完全に自分一人なので音響等を使ったネタは難しい。となれば身一つで出来る漫談、フリップ、シアター系一人コントが向いている気がする。
なんとなく物語性のあるシアター系の方が面白くなかったとしても一つのストーリーとして観客に楽しんで頂けるのでは、という安易な考えでシアター系に絞る。

9月某日
ネタの内容を考え始める。
シアター系とはいえ、自分の経験に近いかたちでないとイメージもつかないし、具体的な動きやセリフも出てこないので、過去のアルバイトや仕事、学生時代の部活の思い出を振り返る。
そこで出てきたのが、指導会/朝礼のイメージ。これなら道具も最低限でなんとかなりそう。

9月某日
朝礼からイメージを膨らませ、「人間が相手ではない朝礼って面白くなりそう」という安易な考え(part2)から、水族館に行って魚を観察してみることに。
すみだ水族館の大水槽前で1時間、来客者や魚たちに(心の中で)ツッコミ続けるストロング修行を実施した。
(ひたすら水槽前の椅子に座ってメモを取り続ける女、客観的に見たら怖い……)

10月某日
芸歴制限撤廃の噂を聞く→後日正式発表あり。
エントリー数が増えて、1回戦が動画審査(THE W方式)になったら嫌だなぁと思いながら、少しずつネタになりそうな言葉を集めていく。
そう、私は勝ち進むことよりも、舞台に立って人前で芸を披露したいだけなのだ。

2.決意

10月30日
ファニーさんのひとり芝居『スケルトンマンの夢の精』を配信で見た(公演自体は10/28)。

やはり私が目指したい/目指している姿は彼のような心の底にある感情を煮詰めて形にしたシアター系一人芝居だということを再確認する。

11月23日
Webエントリー完了。もう後には退けない。1月は仕事の予定がまだ分からないので、12月中の日程でエントリー。

3.ゆらぎ

11月28日
『タモンズのフードファイト』(公演自体は11/27)を駆け込み視聴。
ひろゆきさんの「うまい棒ラブソング」で<こうなりたいけれど、こうはなれない>絶望に襲われる。あゝ、憧れの太陽6ハウス。
ただの<お笑い好き>でいればこんな苦しみもなくて、<同じ舞台に立ちたい>と思う心が少しでもあるから辛い、ということは分かっている。でも舞台に立った時の興奮を知っているからあきらめきれない、チャンスが欲しい。

11月29日
お笑いバックスThe rooF 初現地。
(主にオフライントークの部分で、)ファニーフレンズ事務所各々のネタづくりへの向き合い方とか、九条さんの覚悟とか、多田さんが5秒毎に反省する様を見ていたら、溢れ出る「生半可な気持ちでお笑いをやったらダメなのかな」の気持ち。楽しすぎたが故のゆらぎ。

公演内で告知されたファニーさんの単独ライブ、ミスタークラッカーのサブタイトル「やりたい、むいてない」がまさにいまの私を表すかのような言葉で心に突き刺さる。もしファニーさんと同じ舞台に立てるなら丸刈りにだってするよ。
(ミスタークラッカーのチケットは外れました😖配信楽しみにしてます😖)

というか今のままのネタでは、全然シアター系のシの字もかすっていない。もっと心の奥底にある感情や感覚をひっくり返して言葉にして形にしなければ。もちろん「笑える」「面白い」部分は残しながら。
帰宅後、勢いでネタ後半を改稿していたら寝落ちした。

4.ラストスパート

12月1日
ネタ初通し練習。本読みだけで5分かかってしまった。ここからは無駄なものをそぎ落として2分に収めていく。先は長い。

12月某日
ますかた一真先生に塔里木で占っていただきました。自分の曖昧な言葉に対して、「何に悩んでいるのか」「なぜ悩んでいるのか」が明確に言語化された良き時間でした。ありがとうございました。
今回は5,12ハウスの声に従って、2ハウスの太陽水星は次回以降に活かすことにします!

12月某日
台詞の微調整を進め、安定して2分に収まるようになってきた。
台本を覚えるのは得意だけど、台詞を発話する時に「初めてその言葉を発する」かのように話すとなると難しい。演劇に参加した時、ゲネプロ(本番前日)でその事について超絶ダメ出しされて、電車で泣きながら帰ったことを思い出した。。。

12月20日
予選の日程・集合時間が発表された。
ちゃんと自分の名前がリストにあって安心。

12月某日
母にR-1出場することを報告した。
「素人の面白いか面白くないかよく分からないネタを大量に審査する審査員も大変だね」と爆笑された。

12月28日
5人くらいの審査員の前でネタを披露するも、緊張で変なこと口走って、それを審査員に指摘されて余計パニックになって……という、ベタすぎる夢を見た。自分の潜在意識がセンスなくて嫌になる。

5.本番当日

12月29日
会場に向かう電車で、反対側の座席に座っている女性がベージュのコーデュロイパンツを履いている。『火花』のシーンを思い出して、にやりとする余裕はまだある。 
集合時間より早く着いたので近くの公園で気持ちを整える。他にも出場者っぽい方がちらほら。目が合って会釈。

会場はシアターブラッツ(新宿)です。

①受付
板付きor飛び出し、音源使用の有無、舞台上で使用するもの(借りられるもの+持ち込み)等を受付シートに記入して、エントリーフィー2,000円と共に提出すると、注意事項の紙と番号シールをもらえる。
※音源使用する場合のオペレーターさんもその場で専用のネームタグをもらっていました。

控室では、着替え・ネタ合わせが可能。鏡張りなので動きや表情の確認もできました。
舞台上での動きや出囃子のタイミングなどの注意事項は壁に貼ってありました。(渡される注意事項の紙には2回戦以降の音源使用に関する申請等について書かれていました。)
女性用更衣室はパーテーションで仕切られた程度のものですが在ります。(私は家からほぼ衣装で行ったので、使いませんでした。)

②移動
ブロックの前半後半毎に5人ずつ呼び出しがかかるシステムで、受付から40分程で袖(狭い舞台なので袖というより奥の暗幕の後ろ)に移動。
そこでも、出捌けの流れやネタ開始のタイミングなどを確認してくださいました。
袖で他の方のネタを聞いている時が緊張のMAXでした。特に2人くらい前の方がとてもウケてて、こんな小さい会場でここまで響くんだ、とか思ったらドキドキして、深呼吸したり周りを見回していました。

③本番 
一瞬!!楽しかった!!!全然ウケなかったけど!!!その分ちょっと笑いが起きた時の嬉しさよ!!!
照明がかなり強く当たっていたので、客席の様子はあまり見えなかったけれど、数十人の方々が見て耳を傾けてくださっているのはビシバシ伝わってきて、この時間がずっと続けばいいのに、と。
ほぼ嚙まなかったし声も想像より通って、練習通りやりたいことができて、今できる最善のパフォーマンスは出せたと思います。

その後
どうしてもマックが食べたくて新宿駅南口の方まで散歩し、マクド部自主練しました。サムライマックが緊張から解けた身体に沁み渡ります。

そうしたらアンジュルムの「RED LINE」「ライフイズビューティフル」が流れきて!上國料さん!今日OPERAのマスカラ付けてます!

帰りの電車でじわじわふつふつウケなかった悔しさが溢れてきました。いっぱしに悔しくなるほどのレベルでもないくせに!と冷静な自分は指摘するけれど、でも悔しいなぁ。


YouTubeライブ配信で1回戦通過者の発表。当たり前のように落ちていました。人生そんなに甘くない。おしまい。ありがとうございました。

6.総括

お笑いというより、自分自身の承認欲求と向き合った4か月間でした。
(露悪的になりたい訳ではないけど、こんな自己開示した記事を書く時点で、「私を見て!!」という感情が脳内の9割占めている人間なんてことは明白です……)

さて、V6の「MANIAC」という曲の、 

「自分を表現する 人を笑顔にする それって同じことかもね」

というフレーズが大好きということに以前の記事でも少し触れた気がしますが、
この歌詞って、【表現】と【笑顔】の関係

  • 自分を表現することで、人を笑顔にする(原因ー結果)
  • 人を笑顔にするために、自分を表現する(目的ー手段)

の2通りに解釈できると思っていて。

私は圧倒的前者なんです。他者の笑顔は結果にすぎなくて、自分自身のやりたいことがまず第一に来る。
一方で、例えば私が大好きな大宮セブンや一座のお笑いは、「賞レースが全てではな」くて、「弱さを見せる優しさ」に溢れた、後者だと思います。

言い換えれば、目の前の人を笑顔にしたい!楽しませたい!という気持ちから出てくるお笑いです。(だから、私は彼らのお笑いが大好きなんですけどね)

実は、ますかたさんに占ってもらった時に、「mtskさんは芸人には向いてないかもね」と言われました。
芸人さんは自分のためより、人のためという気持ちが強い方が多いんですって。
私は、
自分のために、自分の中にあるものを表現したいし、
自分のために、人からの注目を浴びたい。
誰かを笑わすのは手段に過ぎない。
私は優しくない。
お笑い芸人や一座に憧れたり成ろうとするにはあまり相応しくない人間なんです。

このR-1への挑戦を通して、「お笑い」を/が「やりたい、むいてない」ことがよ〜く分かりました。結論、ただの自己承認欲求が肥大しすぎた厄介オタク、ということです。つらい。つらすぎる。なんで楽しいはずのイベントで自分の醜い部分と向き合う羽目になっているんだ!?
12/25のお笑いバックスの配信で、ファニーさんがメンヘラ/構ってちゃんということが話題になりましたけど、


www.youtube.com

彼はきちんとお笑い芸人として漫才師として実力も人望も兼ね備えた上で、より自分を出せるようになったのであって、面白くもない、ただの一般人がいきなり構ってちゃんしても、、、ねぇ。

でも、だとしても、演劇をやった時はただ「注目される」快感だったけど、今回はそれに加えて「自分の考えたことで誰かが笑う喜び」という更なる快感を知ってしまって、そしてそれが「自分が考えたことで誰も笑わない恐怖」と背中合わせであるスリルも知ってしまいました。それもまた快感を高めていて。
そして、帰りの電車で感じた「自分がウケなかった」悔しさは、この文章を書きながら、徐々に「もっと会場の人を楽しませたかった」「面白い2分ではなく、つまらない2分を届けてしまった」悔しさに変わってきました。自分本位な創作意欲が、初めてすこし外向きになった瞬間です。この年にして新たな感情の芽生え。今更すぎるけど。
お客さんに面白くて笑いが止まらなくなってもらえるようなネタを作ってみたいし、お笑いをやってみたいんです。

現状、今後の予定としては、7月の資格試験までは勉強に集中して(今年落ちてるので、来年こそは合格しないと……)、夏以降はアマチュアでも参加できるフリーライブに出て、来年度のTHE W &R-1での1回戦突破を目指したいなー、なんて思っています。そしてこれまでと変わらず”大宮のお笑い”や他のお笑いをたくさん見て、自分の言葉や感性とすり合わせて、次へのヒントとしていくこと。
それが自分が やりたい、なってみたい、やれそうな「舞台に立つ」ことへの道な気がするので。またどんな心境の変化があるか分からないから、あくまで今のところは、ですけど。

本来お笑いはこんなに考えこまずにもっとライトにポップに楽しむものなんだろうけど、それが出来たらこうはならなかったわけで、片足(まだつま先くらい?)を突っ込んでしまったからには、これからもそんな矛盾と苦しさを抱えて、私は私なりの方法でお笑いと向き合って楽しんでいくしかなさそうです。

心の底からお笑いが、お笑い芸人さんたちが、大好きだから!それに尽きます。

……でも、せめて「もどき」にはなれたかな?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

おまけ

ネタ書いたり気合い入れたりするのにお世話になった5ハウスと獅子座を刺激する曲たちです。
spotifyは主に賞レースのテーマソング系+自分の趣味。サブスクに無い欄外の曲も自分の趣味です。

モーニング娘。「みかん」
モーニング娘。'16「ムキダシで向き合って」
アンジュルム「限りあるMoment」
BEYOOOOONDS「英雄〜笑って!ショパン先輩〜」「虎視タンタ・ターン」「求めよ…運命の旅人算
V6「MANIAC」「SPOT LIGHT」 
森田剛「DO YOU THANG」